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May 27, 2023 09:57 PM
かつて、下北沢は線路を隔て南北が分断されていた。それが、地下化によって踏切も線路もなくなったことで、人の動線が変わり、街に新しい息吹が生まれた。線路によって街が南北に分断されていただけでなく、東北沢の踏切は「開かずの踏切」として知られ、渋滞も起きていた。それで2013年から、線路の地下化に伴い下北沢路街の開発計画が進められてきた。下北沢路街とは、小田急線「東北沢駅」〜「世田谷代田駅」の地下化に伴い、全長約1.7kmの旧線路跡地を開発して生まれる街である。下北沢エリアは演劇や音楽、古着ファッションなどサブカルチャーの発信地として有名で、多様で個性豊かな方々が共存していることが知られている。その魅力をいかしながら、さらに多くの方が繋がりあうような街になるように、小田急電鉄株式会社は開発コンセプト「「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」の元、地域の店舗や事業者などのプレイヤーとともにまちづくりを手がける「支援型開発」というスタイルで、2016年から6年以上かけて開発を進めてきた。そして2022年5月28日に全面開業された。
本レポートは、主に下北沢路街の室外公共空間に着目し、開発が全部終わった今室外と室内施設がどのように一体的に豊かな公共空間を作り上げるのかを分析する。
 
図1 下北沢 小田急線路街平面図
図1 下北沢 小田急線路街平面図

多様なニーズに応える道

施設・エリアごとの多様性

緑豊かな長い歩道は東京都内でも数えきれないほどある。そんな中で、下北沢路街は従来の商業施設がメインのボックス開発と違う取り組み方がされている。2016年から、13個の多様な施設が続々と下北沢路街でオープンされつづてきた。それはビル型商業施設の開発とは異なり、地域に根ざした形でエリアごとに整備されてきた。
職を体現する駅近の豊かな作業カフェとコワーキングスペース、レンタルスペース;住を体現する家族向け賃貸マンション「リージア代田テラス」、高校生から社会人まで一緒に暮らす「SHIMOKITA COLLEGE」、洋風の宿泊施設である「MUSTARD HOTEL SHIMOKITAZAWA」と温泉旅館「由縁別邸 代田」;食を体現する店主の顔が見える個店が集う「reload(リロード)」、個人の商いや若者のチャレンジを応援する「BONUS TRACK」、オーナーが定期的に入れ替わるPOP UPキッチン、イベントが開催される「下北線路街 空き地」;学を体現する東京農業大学の「世田谷代田キャンパス」と世田谷代田 仁慈保幼園;遊を体現する路街に点在する広場と公園。電車から来た観光客だけではなく、地元の人々が真に誰でも自分の楽しみ方が見つけられるような豊か性を持ち合わせている。また、施設はどれもオープンな低層型設計で、歩道と周りの住宅に溶け込み一体になる親近感を覚えた。

ソシオペタルとソシオフーガルな空間の共存

下北沢エリアは若者が集い・賑わう場所としてのイメージが強いため、一人では行きづらいと感じるかもしれないが、下北沢路街はソシオペタルな空間とソシオフーガルな空間が共存している。
ソシオフーガルな場所から見ていくと、道端にベンチが置かれていて、そこに座りながら静かに通行人と空を眺める人がいた。また、シモキタ雨庭広場と小さな公園があり、散策の中ばそこで休憩をとりながら緑を楽しめる方が多かった。私もお昼をテイクアウトしてそこで食事を取った。
 
図2 世田谷代田エリア
図2 世田谷代田エリア
図3 左:シモキタ雨庭広場 右奥のビル:「SHIMOKITA COLLEGE」
図3 左:シモキタ雨庭広場 右奥のビル:「SHIMOKITA COLLEGE」
もちろん、友達と家族が近距離で楽しめるソシオペダルな空間がたくさんある。以下の写真のように、テラス・広場で個性的な椅子とテーブルが自由に置かれ、人々は店で買った飲み物と食べ物を持って休憩を取っていた。しかも違う場所では違う需要が満たされ、日向ぼっこしてゆっくりしたい方は「ADRIFT」に、店と人間の雰囲気を感じたい方は「BONUS TRACK」に、イベント楽しみたい方は「下北沢路街空き地」に行く。ただし、やはり消費しないと座りにくいところが難しい。
図4 「ADRIFT」のイベントテラス
図4 「ADRIFT」のイベントテラス
図5 「BONUS TRACK」の敷地内広場
図5 「BONUS TRACK」の敷地内広場
図6 下北沢路街 空き地のキャンプ風座席
図6 下北沢路街 空き地のキャンプ風座席
 

守りやすい空間

オスカー・ニューマンの「守りやすい空間」理論から考えると、下北沢路街は子連れの方にとってとても行きやすい空間になっている。

物理的な障壁

下北沢路街は住宅地と近接しているものの、道は終始にわたって植栽に囲まれているため、街路を離れて住宅地に入ったらすぐに喧騒が消えた。また、図16に提示するように、車道からの舗装道の材料の違いと障害物からも、住民のためのパブリックスペースだと主張している。

遍在する自然監視

下北沢路街は細長い道であるものの、分布する施設は全部周辺建築の高さに合わせて低層型で開放型になっているため、高台で閉鎖されているパブリック空間ではなく、見渡しがとても良い。そのため、自然監視しやすい場所である。例えば、下北沢路街空き地では、子供が遊戯施設で遊びながら、親がスタッフと話したり、屋台で食事を楽しんだりできる。また、図8のようなテラス席があるカフェは、下北沢路街全域をわたって点在していて、夜中ではない限りどこ通行しても見守る方がいるのであろう。
下北沢路街空き地
下北沢路街空き地
図8 カフェ「KITADE TACOS」の前の路街
図8 カフェ「KITADE TACOS」の前の路街

環境のイメージの良さ

前述のように、下北沢路街は周りの住宅と合わせて雰囲気と高さが揃っていて、埋め込まれている異物と違い町に溶け込んでいる存在になり、とても守りあすい空間になっている。

ホワイトのオープンスペース研究

ウィリアム・ホワイトのオープンスペース分析では、座る場所の量、広場と道路の境界の明確さ、そして「食べ物」が使われやすさの鍵になっている。「食べ物」の多さは前述の飲食施設の豊かさから見れば自明的である。

座る場所の量

「座ることのできる場所の量」が広場にとって重要な要素になる。その点から見れば、下北沢路街はベンチや椅子などの他に、座れる場所は全部商業施設で消費する必要があるため、広場としての機能は不十分といえるのであろう。しかし、下北沢路街は集う・止まるとしての広場ではなく、通行・下北沢エリアの広い範囲に人々を誘導するための道だと捉えると、その設計にも頷けるのであろう。
図7 商業施設『reload』の中においてある座れないテーブル
図7 商業施設『reload』の中においてある座れないテーブル

広場と道路の境界の明確さ

下北沢路街は広場ではなく道のような存在で、周辺の施設緩やかなつながりを持っていながらも、前節「物理的な障壁」の分析から分かる通り、私有地から公共空間に入ったと明確に示してくれるデザインがあるため、入りやすい雰囲気を保ちつつ公私の分別ができたと考える。
1) 駅とのつながり
下北沢路街の設計では駅もデザインの一部に取り入れてある。例えば世田谷代田駅の建物自体は低い茶色のビルで、自然色な町に溶け込んでいる上、出口の舗道からスムーズに下北沢路街に入れる。
下北沢駅はちょっと特別で、北東口は乱雑している広場になるものの、新しく建設された「NANSEI PLUS」(図11)より駅が下北沢路街と接続できた。南西口から路街がはっきり見えて(図12)、その方向に向かうと商業施設から離れて緑あふれる広場(図14)が道端に存在するのに気づく。駅の駐輪場は一般的な、乱雑していて敷地か舗道の場所を占めるイメージを一掃し、目立たなく緑と駅の二階に登る階段の間に潜んでいる(図13)。
図9 緑と街に溶け込む世田谷代田駅
図9 緑と街に溶け込む世田谷代田駅
図10 世田谷代田駅の舗道と路街のグラデーション
図10 世田谷代田駅の舗道と路街のグラデーション
図11 下北線路街「NANSEI PLUS」俯瞰(提供:小田急電鉄)
図11 下北線路街「NANSEI PLUS」俯瞰(提供:小田急電鉄)
 
図12 「NANSEI PLUS」から眺める路街
図12 「NANSEI PLUS」から眺める路街
図13 「NANSEI PLUS」の中央部分には137台が収容可能の駐輪場
図13 「NANSEI PLUS」の中央部分には137台が収容可能の駐輪場
図14 北沢のののはら広場
図14 北沢のののはら広場
2) 車道とのつながり
下北沢路街は東西軸に置かれているものの、南北の車道がスムーズに貫通していながらお互いを邪魔せずに共存している。舗道と車道の塗装の違いと障害物の存在で境界が別れていて(図16)、車と通行人にとって見やすく自分の空間で移動できる。
駐車場も駐輪場も歩道を邪魔せずに空間に溶け込んでいて、車と自転車で来た外の人々も気軽に下北沢路街を楽しめる。
図16 車道と路街歩道のグラデーション
図16 車道と路街歩道のグラデーション
図17 下北沢駅から西に向かうと出会える駐車場と駐輪場
図17 下北沢駅から西に向かうと出会える駐車場と駐輪場
 
3) 施設とのつながり
下北沢路街沿いの施設は、歩道と一体になりつつなめらかなグラデーションを持っている。図8と図18から、歩道沿いの店の外側にテラス席があり、行き交う人々の興味を起こしている。さらに「BONUS TRACK」では店の正門は中にあるものの、道沿いにテイクアウト窓口があり、中の広場(図5)と違い通行しやすい道である同時に気軽に消費できて気軽に散策を続けられる存在になっている。
図18 BONUS TRACKを路街から眺める
図18 BONUS TRACKを路街から眺める
 

評価

下北沢路街は、従前のパブリック空間とは違い、下北沢という独特のカルチャーを持つ街のパワーを生かし、街の住民たちが主体的に運営・維持できるような「支援型開発」に成功した。例えば、「BONUS TRACK」をはじめとする「下北線路街」にはランドスケープデザイナーが参画し、細やかな植栽計画がなされているが、これらの草花の手入れを、今後は地元住民を中心に2020年3月に発足したシモキタ園藝部も行っていく。
路街全体も多様性に溢れ、地元民に限らずどんな人でも自分の居場所と楽しみ方が見つけられる豊かな街になった。

課題

一つ残念だと感じた点は、1.7kmに渡る下北線路街の歩道は下北沢駅で分断された。下北沢駅北東口(図19)へ着くと、歩道が経たれるため、一回市街に入ってから南西口の歩道に戻らなければならない。下北沢の道は入り組んでいてわかりにくいため、地元民ではない人にとっては見つけにくいかもしれない。「シモキタエキウエ」という2階にある施設があるものの、北東口から上に上がる動線が不明確で辿り着きにくい欠点がある。下北線路街の連続性を意識した上で、下北沢駅周りの動線計画を見直した方が好ましいのであろう。
 
 
図19 下北沢駅北東口の駅前広場
図19 下北沢駅北東口の駅前広場
下北沢駅の配置図
下北沢駅の配置図

参考資料

  • 6年以上をかけた「下北線路街」が全面開業 地域価値を創造する“支援型開発” 【政経電論】. (2022, 6月 8). 政経電論. https://seikeidenron.jp/articles/20973
  • 「下北線路街」が全面開業、ニューノーマル時代に即した「駅前開発」とは? |FEATURE|TECTURE MAG(テクチャーマガジン). (日付なし). TECTURE MAG(テクチャーマガジン). 読み込み 2022年11月17日, から https://mag.tecture.jp/feature/20220529-62245/
  • 下北線路街とは? | 下北線路街. (日付なし). みんなでつくる新しい街 | 下北線路街. 読み込み 2022年11月17日, から https://senrogai.com/concept/
  • 「下北沢線路跡地のまちづくり ―シモキタに寄り添う支援型開発」(日本都市計画学会 |第42回現地見学会)(2022/6/10 東京). (日付なし). まち座|今日の建築・都市・まちづくり. 読み込み 2022年11月17日, から https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-event-shimokita-20220610/
  • 古田島大介. (2022, 2月 5). 賛否があった「下北線路街」開発秘話。小田急が気づいたまちづくりで大切なこと. 日刊SPA! https://nikkan-spa.jp/1808943
 
現在、住宅の在り方の可能性についてFirst Read: About myself

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