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Jun 4, 2022
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違う捉え方によって設計された水空間に着目し、それがいかに人間の無意識を利用して感覚と体験を与えたことについて論じる。
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Space Design
Meditation
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Jan 3, 2023 07:52 AM

概要

建築空間と違い、人間がランドスケープに置かれる時、その空間を主体と対立する客体として観察・分析することが少ない。それは、屋外の公共空間にいる時、人は空間のほとんどが人工物である内部空間から解放され、体の延長として地面と天空を捉えると考える。その時、人は空間の要素に対し、認識論的に解釈せず、直感的な経験に基づいて無意識的に行動する。例えば、設計者により作られたベンチが唐突に広場空間の中に置かれていても、座る人がなかなかいないのに対し、水面を持ち上げるように囲まれた石に人が自然に腰掛ける。つまり、ランドスケープ設計で特に大切なのは、人間が無意識的に選択する自然とのインタラクションをさりげなく、無造作にデザインに還元することだと考える。
この記事では、違う捉え方によって設計された水空間に着目し、それがいかに人間の無意識を利用して感覚と体験を与えたことについて論じたい。また、人間が知覚している環境は水を主役としそこだけ分析するよりも、水を含めたランドスケープ全体が演出している空間が人間の心理に対する作用に着目する。

滝と音の塊:三井物産プラザ

人々は滝を見るとき、滝の勢いからその音を一緒に連想する;その逆も然り。そして都市のランドスケープに置かれている滝は、人々に異空間にいるような非日常的な体験を与える。自動車騒音とおよそ同じぐらい75dBの音圧レベルを持っている滝音のホワイトノイズは都市騒音をマスキングするだけではなく、人々の対話を隠蔽することでプライバシーを守る(Whyte, 1980)。
滝の例で三井物産プラザを挙げたい。三井物産プラザの内堀通り側を囲む滝は計測によると、1メートルの落差で、60メートルほどの幅にわたって広く流れ落ちる滝。プラザが大変な量の自動車騒音にさらさわれているものの、滝と高さ約2メートルの盛り土と植物帯によって、騒音は70〜85デシベルから5〜10dBまで下がっていた(鈴木,1981)。そのため、人々は敷地内を散策するとき、一時的に都市にいることを忘れられる。

近寄らせる橋と伝石:三四郎池

Whyteは著書の中で、「水を人々の前に置きながらそれを触らせないことがよろしくない」と語った。確かに今は衛生と管理の観点から、なるべく人の接触を避けるべく、高く広い間隔を置く装置が多い。しかし、たとえ触れさせなくても、できるだけ近寄らせる工夫はすべきだと考える。なぜなら、水との距離が近いほど、人々は水の清涼さと湿潤さを知覚し、心が沈められる。
三四郎池がその工夫が込められた好例である。池面から距離のとても近い橋と池の中心まで続く伝石が配置されることで、人々は全身の意識を足元の石と水へと注ぐ。そして水に直接触らなくても、池の涼しさを全身をもって感じられる。

視覚の観点から考えると、水とは光を一番多様で豊かな形態として呈することのできる媒体である。入射する太陽光に対し、俯角が10度ぐらいの遠い位置に立つとき、水は鏡になり建物や空などをきれいに映し出す;俯角が60度ぐらいの位置に立つとき、水は水底の鮮明な映像を屈折により目に届ける。また、風と雨で水面が波打つとき、水は現像をきれいに揺らしながら変化を与える。

反射する水鏡:東京都立大学南大沢キャンパス

東京都立大学南大沢キャンパス理工広場の水鏡は、富士山遺産センターのように面積広く建物も空も全部映り込んているものの、木立に挟まれた歩道に奥行きと深さを増した。そのため人々の視線は自然に仰角よりも見やすい俯角の角度に向けられた。さらに三角形のシンボルだけを強調することで、建物と池自体の象徴性も共に際立たせた。
出典:東京都立大学公式サイト
出典:東京都立大学公式サイト

透けて見せる水膜:妙正寺川第一調節池

妙正寺川第一調節池のような浅く澄質な水を通して、水底の紋様が湿潤さと清涼さを増し人々の目に届ける。その豊かさと心地よさに引き寄せられ人々が集まる。さらに無造作に配置される石組と伝石は人々に休憩と遊びの自由な空間を与え、人工公園の中にいながらも自然の中で戯れる体験を提供できる。
出典:『Contemporary Japanese Landscape』
出典:『Contemporary Japanese Landscape』

揺らす水の階段:第一勧業銀行本店

妙正寺川第一調節池の静態で平坦な水膜に対し、第一勧業銀行本店の水の階段は勾配の帯びた、透明感とせせらぎ浅さのバランスを絶妙に取れた池である。波の生き生きした動きを強調するために、水中に静態なオブジェが対比となり、人々の視線を自然に段差にある小滝に誘導した。また、透明感を演出するために、水深は数十センチ以下に取った;これ以上深くなると、水による光吸収が可視性障害になる(鈴木,1981)。最終的に呈された水の階段は、水底の鮮やかな黄色い紋様を映し出しながら飛沫の白みを帯びることに成功した。
出典:『Contemporary Japanese Landscape』
出典:『Contemporary Japanese Landscape』

立ち籠める霧:独立行政法人物質・材料研究機構プラザ

出典:『枡野俊明のランドスケープ 心の表現としてのデザイン』
出典:『枡野俊明のランドスケープ 心の表現としてのデザイン』
出典:『枡野俊明のランドスケープ 心の表現としてのデザイン』
出典:『枡野俊明のランドスケープ 心の表現としてのデザイン』
水を違う形態で捉え、豊かな演出効果を実現したのが物質・材料研究機構プラザである。このプラザは、全体的に乾いた大地を表す御影石のペイブメント・強い石群とわずかに残る樹木により構成されたドライな空間であるため、池を取り入れたらその折角構成された草原の乾燥なイメージが破壊される。そのため、霧の設計は巧妙に空間に少し潤いを与えながら、全体的なイメージを保つことができた。また、霧の後側からプラザをたがめるとき、正面から全く違う曖昧で不思議な視点を提供することができた。さらに夜になると、水中の光源によって霧自体が輝ける一つの光源になって、全反射を繰り返しながら空間をぼんやり照らし、人々の心に癒しを与えた。

まとめ

以上により、水の広さ、深さや形態などのパラメーターに加え、水中・水上空間に置くオブジェの配置により、水は人々に全く違う豊かな感覚をもたらすことができる。

参考文献

Contemporary Japanese Landscape. プロセスアーキテクチャ, 1988年.
William H. Whyte. The Social Life Of Small Urban Spaces. 1980年年1月31日. Project for Public Spaces Inc,
鈴木, 信宏. 水空間の演出. 鹿島出版会, 1981年.
枡野俊明のランドスケープ 心の表現としてのデザイン PROCESS ARCHITECTURE特別号7. プロセスアーキテクチュア, 1995年.
東京都立大学公式サイト. 「東京都立大学」, 2022年6月1日. https://www.tmu.ac.jp/.
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